「あんなに元気だったのに……」 預かり保育で乳児死亡 両親が伝えた「教訓」



子どもを預けたい人と預かりたい人をつなぐ自治体の事業「ファミリー・サポート・センター(ファミサポ)」。この事業を利用して娘を亡くした両親が3月14日、厚生労働省を訪れ、「事故の教訓を生かしてほしい」と国に要望した。

事件の経緯を振り返る。

事件の経緯を振り返る。

Kazuki Watanabe / BuzzFeed

2010年11月中旬、母親の藤井真希さんは大阪府八尾市の「ファミリー・サポート・センター事業」を通じて紹介された女性の自宅を訪れ、生後5カ月のさつきちゃんを預けた。

真希さんは以前から足の痛みを感じており、通院のために、午前9時半から1時間だけ預ける予定だった。ファミサポのことは、母子手帳をもらうときに受け取ったチラシや、市役所に置いてあったパンフレットなどで知った。これを利用すれば安心と考えたという。

だが約1時間後、真希さんが病院から戻ると、さつきちゃんは心肺停止の状態だった。

女性宅の玄関扉は開けっ放しになっていた。中では、女性が慌てた様子で「救急車、救急車」と繰り返していた。

間もなく、救急車が到着した。救急隊員の救命活動のおかげで、さつきちゃんの心臓は再び動き始めた。

しかし、意識は戻らなかった。「低酸素状態が長く続いたため、脳へのダメージが大きい。持って3日だ」。父親の朋樹さんは、病院でそう告げられた。

「娘はその後3年、脳死状態で、明日死ぬかも知れないという状況で命を保ちました。ICUから一般病棟に移って、一日一日……。子どもと一緒に前に進む毎日でした」

「娘はその後3年、脳死状態で、明日死ぬかも知れないという状況で命を保ちました。ICUから一般病棟に移って、一日一日……。子どもと一緒に前に進む毎日でした」

脳死状態で入院中のさつきちゃん

両親提供

いったい、女性宅で何が起きたのか。

事故直後、両親は預けた女性から、次のような説明を受けたという。

・さつきちゃんが泣いたので、寝かせようと思ってうつぶせに置いた。うつぶせにしたのは、その方がよく寝ると考えたから。

・預かっている間、テレビを付けていた。

・預かっている間に、トイレに行ったことはある。

・息をしていないのに気付き、うつぶせに寝ていたところを抱き起こして、口から息を吹き込んだ。すると、鼻からミルクが吹き出した。

・急いで救急車を呼んだ。

真希さんは言う。

「娘が心肺停止になったのは、うつぶせ寝が原因です。また、救命措置も不十分でした。鼻からミルクが吹き出したということは、鼻を押さえずに人工呼吸をしたということ。心臓マッサージもしていなかったそうです」

預かった女性はさつきちゃんが亡くなった責任を認めず、謝罪もなかった。しばらくすると代理の保険会社が窓口となったため、直接の連絡がとれなくなった。保険会社側は「納得いかないなら、法的対応を」と伝えてきたという。

さつきちゃんは3年間の闘病を経て、2013年10月に事故の後遺症で亡くなった。両親はその翌月の2013年11月、預け先の女性と八尾市、市社会福祉協議会を相手に、約7900万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。

「泣き寝入りか、裁判かの2択を突きつけられ、しかたなく裁判を起こした」と真希さんは言う。

裁判での尋問の段階でも、預かり先の女性は多くの質問に「覚えていません」「わかりません」と答えた。後悔や反省を問われると「特にありません」と語ったという。

ついに謝罪

一方、大阪地裁の裁判官は2016年12月に「うつぶせ寝が原因で死亡した可能性が高い」という考えを示したうえで、和解を勧めた。

2017年3月3日に成立した和解では、女性が謝罪して、4000万円の和解金を支払うことが決まった。市と市社協は、再発防止に努めるとした。和解金は保険会社から支払われるという。

預かり先の女性は、さつきちゃんの遺骨と遺影の前で、謝罪した。

裁判などを通じて女性の態度を見てきた朋樹さんの目には、心からの謝罪には見えなかった。「しかし、当初から求めていた謝罪をしてもらえたのは、重要なプロセスだった」という。

「二度と悲しい事故が起こらないように……」

「二度と悲しい事故が起こらないように……」

記者会見する藤井真希さん

Kazuki Watanabe / BuzzFeed

ファミサポ事業は、自治体が仲介役として子どもを預けたい人と、預かる有償ボランティアとをつなげるもの。国が提唱して、2014年度には全国769の自治体で実施されている。ただ、預けたい人49万人に対して、預かれる人は13万人にとどまる。安全対策のための講習をどこまで実施しているかも、自治体によってバラツキがあるという。

今回の事故と裁判和解を経て両親は、預かる人がファミサポ事業に登録する際に受ける講習のカリキュラムを国がつくって受講を義務付けることや、最低でも年に1度は預かり先に救急救命講習を義務付けること、低年齢児は原則的に専用施設で預かることなど、9項目の要望を国に申し入れた。

両親は厚生労働省で記者会見した後、記者にさつきちゃんの写真を見せてくれた。

「この写真は、預ける直前に撮ったものです。このときは、こんなに元気だったのに……」と真希さんは語る。

「この写真は、預ける直前に撮ったものです。このときは、こんなに元気だったのに……」と真希さんは語る。

藤井さつきちゃん

両親提供

「ファミサポ事業は、国と自治体が実施する子育て支援事業で、現在も多くの家庭が利用しています。二度とこんな悲しい事故が起こらないようにしてほしい」

真希さんはそう、力を込めていた。



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